令和4(2022)年5月13日、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)改正案が参議院本会議で可決され、成立しました。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/r4/220513.html
https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXZQOUA131D70T10C22A5000000

 令和4年改正薬機法では、ゞ杁淹において、安全性の確認を前提に、医薬品等の有効性が推定されたときに、条件や期限付きの承認を与える迅速な薬事承認の仕組みを整備するとともに、▲ンライン資格確認を基盤とした電子処方箋の仕組みを創設し、その利活用を促すため、所要の措置を講ずるものとされました。
 上記,蓮◆緊急承認」の制度を創設するものであり、感染症が大流行した際などの緊急時に治療薬やワクチン等の製造販売に対して迅速に薬事承認を付与することにより、新規医薬品等の早期開発・実用化を図ることを目的としています。
 一昨年からの新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行に際しては、特例承認(緊急時に健康被害の拡大を防止するため、外国において販売等が認められている医薬品等に承認を与えるものであり、本来の承認手続による規制の緩和や一部の承認申請資料の提出猶予により、迅速な医薬品等の供給に向けた措置が講じられています。)の適用により、米国で緊急使用許可(EUA: Emergency Use Authorization)が与えられたmRNAワクチンや治療薬(レムデシビル等)の製造販売が承認されました。
 しかし、特例承認の適用においては、外国での販売等が認められていることが前提となるため、外国でいまだ製造販売等が認められていない新規の医薬品等を我が国で初めて承認する場合には特例承認の適用外とされていました。また、特例承認であっても通常の承認制度と同様に有効性が認められ(有効性の確認)、有効性に比して著しく有害な作用を有しないと認められる場合(安全性の確認)であって初めて承認が与えられるものであることから、例えばワクチンにおいて、海外で流通している品目であっても、日本人での有効性・安全性を確認するための臨床データが十分でない場合には、その確認のため国内治験を追加で実施しなければならないなどの課題がありました(令和3年12月27日・厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会報告書「緊急時の薬事承認の在り方等に関する取りまとめ」)。
 新型コロナウイルス感染症対策としてのワクチンや治療薬の特例承認においても、我が国における特例承認のタイミングが先進諸外国の緊急使用許可等と比べて数週間〜数か月程度の遅れがあったことが指摘されています(上記報告書4頁)。

 今般の薬機法改正により創設された緊急承認(令和4年改正薬機法14条の2の2〔医薬品〕、23条の2の6の2〔医療機器・体外診断用医薬品〕、23条の26の2〔再生医療等製品〕)においては、承認申請の対象とされた医薬品等の承認要件として、
(1)「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な」医薬品等であること(緊急使用の必要性)、
(2)当該医薬品等の「使用以外に適当な方法がないこと」(非代替性)を定めるほか、
(3)「申請に係る効果又は性能を有すると推定されるものであること」(有効性の推定)、
(4)「申請に係る効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより〔中略〕使用価値がないと推定されるものでないこと」(安全性の確認)を明文で規定しました(上記の(1)(2)については特例承認と同様の発動要件を定めたものです。)。
 併せて、(ア)適正な使用の確保のための条件及び2年を超えない範囲の期限を付した承認とし(条件及び期限付承認)、期限内に改めて〔本〕承認申請が必要とされるとともに、条件・期限付承認後に有効性・安全性の確認ができなければ当該承認を取り消すことができること、(イ)承認審査の迅速化のため、GMP調査(製造管理・品質管理)、国家検定、容器包装等について特例措置を講ずること、(ウ)市販後(条件・期限付承認後)の安全対策として、有効性・安全性等の情報を収集・評価するGPSP調査(使用成績等調査)とその結果報告、〔本〕承認申請における使用成績等の資料添付等を義務付けることとされています。
 緊急承認においても、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が承認申請のあった医薬品等の審査等を行い、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いた上で、厚生労働大臣が最終的な承認の可否を判断するという基本的な手続の枠組みについては、通常の場合の医薬品等の承認と同様です。

 緊急承認の導入により、我が国においても、米国のEUA、EUのCMA(Conditional Marketing Authorization(条件付承認))といった緊急時において有効性が推定される新規医薬品等の迅速な使用許可の仕組みが整備され、有事におけるワクチン・治療薬等の迅速な開発と供給が図られることが期待されます。現行の特例承認においても、緊急時としては、感染症のアウトブレイクに加え、原子力事故、放射能汚染やバイオテロ等も幅広く含まれることとしており、このことから、緊急承認制度も現在の特例承認と同様の考え方とすることが適当であるとされ(上記報告書6頁)、発動(承認)要件として特例承認と同様の緊急使用の必要性が定められました。緊急承認の仕組みは、緊急時における医療資源の安定確保を含む我が国の緊急事態対処能力の向上や国家安全保障上の課題への対応にも寄与するものと期待されます。

 なお、少数例による安全性が確認された上で有効性が推定される物に条件及び期限付きで承認を与える制度で先行するものとしては、再生医療等製品の条件・期限付承認の規定(薬機法23条の26)があります。これは再生医療等製品の特性(製品の品質や薬理作用物の発現量が不均一)に鑑み、平成26(2014)年に設けられた制度です。令和4年改正薬機法により、再生医療等製品については、従来の条件・期限付承認のほかに、緊急承認の枠組みによっても迅速な供給の道筋ができたことになります。最近では新型コロナウイルス感染症患者に対する幹細胞治療など、再生医療の技術を感染症対策に活用する動きが注目されていることもあり、安全性の確認は当然の前提というべきですが、緊急承認の仕組みが結果として再生医療等製品の早期実用化に寄与する可能性も考えられます。