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 本ブログ筆者が委員を務めた「令和2年度 ヒト細胞原料の安定供給実現に向けた委員会」の成果報告書がAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)のウェブサイトで公開されました。
令和 2 年度 ヒト細胞原料の安定供給実現に向けた委員会 成果報告書

 委員会での議論を基に、昨年度、経済産業省より公開された「ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス(初版)」を改訂し、再生医療等製品の製造を目的としたヒト細胞原料の供給における法的・倫理的・社会的課題を整理した「ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス(第2版)」も取りまとめられました。
再生医療等製品の原料となるヒト細胞の供給に係るガイダンスを改訂しました(経済産業省)
ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス(第2版)
産業利用可能なヒト(同種)体性幹細胞原料の提供同意取得のための説明文書・同意文書の参考例

 商用可能なヒト(同種)細胞原料の安定供給の実現のためには、法的課題だけを取り上げても、
(1) 原料細胞の所有権の帰属や移転(HeLa細胞が社会問題となり、ムーア訴訟等の係争事例もあった米国などと異なり、これまで我が国では本格的な議論が乏しかったところですが、おそらくは物権変動の意思主義や対抗要件論、動産の付合や加工といった民法の所有権理論に従って解決することになるでしょう。)、
(2) 細胞のゲノム情報と個人情報保護・人格的利益との関係で原料組織・細胞の提供者(ドナー)の同意・同意撤回の自由はどの程度まで保障されるのか
といった論点に関する検討がまだ十分に尽くされているとはいい難いでしょう。原料細胞の所有権の帰属や人格権の権利行使リスクをめぐる法的整理が不明確な状況のままでは、企業サイドが調達リスクへの過大な配慮から再生医療等製品の製造・販売に二の足を踏んでしまい、ヒト細胞原料の円滑な産業利用が思うように進まない可能性も懸念されます。

iPS細胞のイラスト


 筆者も、再生医療分野に携わる法律専門家として、上記のようなヒト(同種)細胞原料の安定供給に向けた法的課題が解決され、より一層我が国の再生医療の環境整備が進み、一人でも多くの患者・市民の手に届く再生医療の実用化が図られるように、力を尽くしていきたいと考えます。