弁護士・弁理士 大西達夫のブログ

知的財産法・行政法・医事法の分野を中心に、話題となっている法改正や裁判等のニュース解説、ビジネスや日常生活と法律との関わりなどを説明していきます。



 令和6(2024)年3月5日、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)及び臨床研究法の一部を改正する法律案が内閣において閣議決定され、第213国会(令和6年常会)に提出されました。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDBBDE.htm
https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/213.html

 以下においては、再生医療等安全性確保法に関する法改正事項を中心に、_正の背景、改正案の概要、今回の改正を踏まえ、又はこれと並行して進められる規制の整備動向、さ制に関する今後の課題について、現状の情報から可能な範囲において考察します。
 なお、本稿の意見にわたる部分は本ブログ執筆者の個人的見解であり、筆者が外部専門家として関与する厚生労働省、特定認定再生医療等委員会その他の機関の公式見解・指針等を示すものではありません。
(※以下、赤字は全て本ブログ執筆者によるものです。)

1. 改正の背景

 2014年11月25に施行された再生医療等安全性確保法(平成25年法律第85号)においては、施行後5年以内に、施行の状況、再生医療等を取り巻く状況の変化等を勘案し、同法の規定に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされていました(同法附則2条)。

今後の再生医療の実用化を促進する制度的枠組み







 2019年以降、厚生科学審議会再生医療等評価部会において、この再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討(再生法見直し検討)が行われ、^緡典蚕囘の変化への対応、∈得鍵緡電の安全性及び科学的妥当性の確保、再生医療等に係る研究の推進という項目ごとに、多岐にわたる事項の検討が進められてきましたが(令和4年6月3日再生医療等評価部会・再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ。再生部会とりまとめ)、最終的にはin vivo遺伝子治療等への規制対象の拡大、及び認定再生医療等委員会の質の担保の2点に的を絞って法改正事項として対応することとされました(下記スライド赤枠参照)。

再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ(概要)







 また今回の法改正では、臨床研究法(平成29年法律第16号)施行5年後の見直しに係る検討(同法附則2条2項。臨床研究法見直し検討)のとりまとめ(令和4年6月3日厚生科学審議会臨床研究部会。研究部会とりまとめ)で挙げられた検討事項のうち、適応外医薬品等に関する特定臨床研究の対象範囲の見直しについて同法及び再生医療等安全性確保法の法改正事項として対応することとされており、研究として行われる再生医療等にも当該見直しの影響が及ぶこととなります。

2.改正案の概要

(1) 細胞加工物を用いない医療技術(in vivo遺伝子治療等)への規制対象の拡大

ア 現行の再生医療等安全性確保法においては、「細胞加工物」(「人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの」)を用いる医療技術(「再生医療等技術」)を用いて行われる医療が「再生医療等」として同法の適用対象となる旨を規定しています(同法2条1項、2項及び4項)。したがって、いわゆる遺伝子治療に関しては、細胞加工物を用いる(遺伝子を改変した細胞、又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与する)ex vivo遺伝子治療のみが同法の適用対象とされており、生体内(in vivo)に直接遺伝子を導入したり、特定の塩基配列を標的として生体内の遺伝子を改変したりするin vivo遺伝子治療は、細胞加工物を用いないため、再生医療等安全性確保法の適用対象とはされていません。
 また、臨床研究として行うin vivo遺伝子治療には、臨床研究法及び遺伝子治療等臨床研究に関する指針(平成31年厚生労働省告示第48号。遺伝子治療等臨床研究指針)の対象となっていますが、診療(自由診療)として行われる場合には特段の規制がかかっていません。
 他方、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。薬機法)においては、平成25年法律第84号による改正において、in vivo遺伝子治療製品もex vivo遺伝子治療製品と併せて「再生医療等製品」(遺伝子治療用製品)として規制の対象となっています。主に希少疾病を対象として、ゾルゲンスマ点滴静注(脊髄性筋萎縮症)やデリタクト注(悪性神経膠腫)など(いずれも販売名。括弧内は対象疾患)、上記改正後の薬機法の下で再生医療等製品として承認の上、保険収載されて実用化されている製品もあります。
 in vivo遺伝子治療についても、ex vivo遺伝子治療と同様に、安全面や倫理面の課題、後世への遺伝的影響、治療に用いるウイルス拡散等による生物多様性への影響等の課題があると考えられており、これらの課題に対処する上で、規制に関する法的枠組みが両者で大きく異なる状態を解消する必要があります。そこで今回、in vivo遺伝子治療にも、診療として行われる場合を含め、再生医療等安全性確保法による規制対象を拡大することとされました。
イ 再生医療等安全性確保法の改正案(改正法案)では、「再生医療等技術」の定義規定を改正し、人の身体の構造若しくは機能の再建、修復若しくは形成又は人の疾病の治療若しくは予防に用いられることが目的とされている医療技術であって、細胞加工物を用いる医療技術のほか、「核酸等を用いる医療技術」(薬機法による承認を受けた医薬品又は再生医療等製品をその承認に係る用法等で用いるものを除く。)を「再生医療等技術」として定めています(改正法案2条2項2号)。そして、「核酸等」とは「人の体内で当該人の細胞に導入される核酸並びに核酸及びその他の遺伝子の発現と密接な関係を有する物を加工するための機能を有する物(これらを含有する物を含む。)」をいうとされ、さらに再生医療等に用いられる核酸等のうち医薬品及び再生医療等製品であるもの以外のものを「特定核酸等」と定義づけ(改正法案2条5項)、特定細胞加工物とともに「特定細胞加工物等」としてその製造、製造施設及び製造事業者に関する定義規定を設けています(「製造」について、特定核酸等にあっては「化学合成その他の方法により生成すること」と定義づけています。)(改正法案2条6項及び10項)。
ウ 薬機法では、「人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの」を遺伝子治療用製品(プラスミドベクター製品、ウイルスベクター製品及びその他の遺伝子発現治療製品)として定めています(薬機法2条9項2号、同法施行令1条の2及び別表第ニ)。
 他方、再生法見直し検討においては、遺伝子治療等臨床研究指針で定義する「遺伝子治療等」技術、すなわち遺伝子の導入又は改変を行う技術には該当しないものの、最終的にタンパク質等の発現と発現制御のいずれかを行う技術である点において、「遺伝子治療等」と技術やリスクが近似する「関連技術」、例えばゲノム編集技術を応用した技術(DNAの改変を行わず核内で目的塩基配列(染色体DNA)に結合することで発現調節を行う技術)については、再生医療等安全性確保法の対象範囲とするものとされました(令和3年11月17日・再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループとりまとめ。WGとりまとめ)。
 具体的な規制対象とされる再生医療等技術の範囲については政令(再生医療等安全性確保法施行令)で定めることとされ(改正法案2条2項柱書)、またリスク(人の生命及び健康に与える影響)の程度に応じた再生医療等安全性確保法技術の区分(第一種から第三種まで)は省令(同法施行規則)で定めることとされていますが(改正法案2条7項〜9項〔現行の同法2条5項から7号まで〕)、特定核酸等を用いる再生医療等技術(遺伝子治療等技術)には造腫瘍性(がん化)や免疫毒性といった、遺伝子の導入又は改変等を行う技術に特有のリスクがあることから、最もリスクの程度が高いものとして提供制限(同法9条)及び厚生労働大臣による変更命令等(同法8条)の対象となり、厚生科学審議会(再生部会)の意見聴取(同法55条4号)が求められる第一種再生医療等技術(同法施行規則2条)に新たに加えられることが見込まれます。

(2) 再生医療等の提供基盤の整備(認定再生医療等委員会の審査の質の担保)

ア 再生法見直し検討においては、再生医療等の安全性及び科学的妥当性を確保するため、再生医療等を提供する医療機関、再生医療等提供計画を審査する認定再生医療等委員会、再生医療等に用いる特定細胞加工物を製造する特定細胞加工物製造事業者等のそれぞれについて、質を確保するためのより実効的な仕組みについて検討されました(部会とりまとめ)。
 今回の再生医療等安全性確保法の改正案では、上記の検討事項のうち、認定再生医療等委員会の審査の質を担保するための法改正事項として、認定再生医療等委員会に対する立入検査欠格要件等の規定が整備されることとなりました。
イ 改正法案では、研究又は医療として提供される再生医療等の計画(再生医療等提供計画)の審査等業務を行う再生医療等委員会を設置する者から、当該委員会が審査等業務の適切、公正な実施等のために厚生労働省令(再生医療等安全性確保法施行規則)で定める基準に適合することの認定の申請があった場合においても、申請者が々感愀紺幣紊侶困暴茲擦蕕譟△修亮更圓鮟わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき、△海遼[Г修梁捷駝韻諒欸魄緡鼎亡悗垢詼[Г農令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき、上記認定を取り消され、その取消しの日から起算して3年を経過しない者であるとき、ぞ綉認定取消処分の通知日から当該処分をする日等までの間に認定再生医療等委員会の廃止の届出をした者で、当該届出の日から起算して3年を経過しない者であるとき、ゾ綉認定の申請前3年以内に審査等業務に関し不正又は著しく不当な行為をした者であるとき、λ/佑任△辰討修量魄のうちに上記 銑Δ里い困譴に該当する者があるとき、法人でない団体であってその代表者又は管理人のうちに上記 銑イ里い困譴に該当する者があるときのいずれかに該当するときは、上記認定をしてはならないとして、認定再生医療等委員会を設置する者の欠格事由を新たに規定しています(改正法案26条5項1号から7号まで)。
 また、現行の再生医療等安全性確保法では、認定再生医療等委員会の審査等業務の適切な実施を確保するため、上記認定を受けた認定再生医療等委員会の設置者(認定委員会設置者)に対する厚生労働大臣の報告徴収権を定めていますが(同法31条)、今回の法改正では、当該報告徴収権に加えて、厚生労働大臣に、その職員が認定委員会設置者の事務所に立ち入り、その帳簿、書類その他の物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる権限を付与しています(改正法案31条1項)。
ウ 臨床研究法の認定臨床研究審査委員会については、厚生労働大臣の職員による立入検査や認定委員会設置者の欠格要件等の規定が立法当初から定められています(同法24条各号及び35条1項)。今回の法改正により、認定再生医療等委員会についても、同様の規定が整備されることとなりました。
 他方、再生法見直し検討においては、認定再生医療等委員会に対して定期報告を求める対応も検討されましたが、委員会の事務負担も踏まえ、今回の法改正事項として規定することは見送られました。

(3) 特定臨床研究等の範囲の見直し等に伴う再生医療等製品等の適応外使用に関する規制の見直し

ア 臨床研究法見直し検討においては、臨床研究における医薬品等の用法、用量、効能及び効果(用法等)が承認された用法等と少しでも異なる場合には、全て特定臨床研究と定義され、例えば、学会の診療ガイドラインに掲載されている使用法や、保険診療で使用経験がある使用法、承認された用法・用量よりも少量を投与する使用法(いわゆる減量プロトコル)であっても、一律に特定臨床研究の対象となり、特にがん領域と小児領域においてこのような研究が多く、医療上必要な臨床研究の実施が困難となり、結果として医療の向上を阻害しているとの意見がありました。
 そこで、適応外医薬品等を使用する研究であっても、各種の情報に基づき、そのリスクが承認を受けた用法等と大きく変わらないことが明らかなものについては、特定臨床研究の範囲から除外する方向で見直しを進めることとされ、特定臨床研究の範囲から除外するか否かの検討に当たっては、当該医薬品等の使用に係るリスクが承認を受けた用法等と大きく変わらないかどうかについて、根拠となる情報に基づき、厚生労働省が専門家の意見を聴取する方向で制度を構築すべきであるとされました(研究部会とりまとめ)。
 これを受けて、今回の臨床研究法の改正法案では、特定臨床研究の対象となる医薬品、医療機器及び再生医療等製品の適応外使用(当該医薬品等の薬機法による承認に係る用法等と異なる用法等で用いる場合)の範囲から「人の生命及び健康に影響を与えるおそれが当該承認に係る用法等と同程度以下のものとして厚生労働省令で定める用法等」を除くこと等が定められました(同法改正案2条2項2号ロ、ニ及びヘ)。
イ 上記アの臨床研究法の法改正事項を踏まえ、再生医療等安全性確保法においても、適応外再生医療等製品を使用する医療であって、既承認の用法等とリスクが同程度のものについては、再生医療等安全性確保法の範囲から除外することとし、リスクの判断に当たっては、再生部会において検討を行うこととされました(令和6年1月17日・第91回再生医療等評価部会資料1「再生医療等安全性確保法の見直しについて」)。
 再生医療等安全性確保法の改正案では、薬機法の承認を受けた医薬品(核酸等)又は再生医療等製品(細胞加工物若しくは核酸等)のみを「その承認に係る用法等」又は「人の生命及び健康に影響を与えるおそれが当該承認に係る用法等と同程度以下のものとして厚生労働省令で定める用法等」で用いるものを除く旨の除外規定を設けており(改正法案2条2項1号及び2号各括弧書)、当該厚生労働省令の制定又は改廃の場合には、厚生労働大臣は、あらかじめ、厚生科学審議会(再生医療等評価部会)の意見を聴かなければならないものとされました(同55条2号)。

3.規制の整備動向

 前記1のとおり、再生法見直し検討においては多岐にわたる検討事項がピックアップされていましたが(前記スライド図参照)、その中には現行の再生医療等安全性確保法の下における解釈変更や運用の改善、指針の確立といったソフトロー的な手法で実現可能なものも多くあります。

(1) 再生医療等安全性確保法による事前規制の手続緩和

 例えば、「薬事承認された医療機器を用いて製造される特定細胞加工物を用いた再生医療等技術について、手続を緩和することを検討すべき。」については、既に薬機法下で適応症を含む製造販売承認(薬事承認)を取得した医療機器のみをその薬事承認の内容に従い用いて再生医療等を提供する場合であって、その品質、有効性及び安全性を確保するために求められる使用方法等について十分に留意しつつ提供が行われる場合には、薬機法による薬事承認及び再生医療等安全性確保法の規制の趣旨に鑑み、当該医療機器を用いる医療技術について再生医療等技術に該当しないものとして取り扱って差し支えないこととする課長通知が発出されています(令和4年10月5日医政研発1005第1号「医薬品医療機器等法下で適応症を含む承認を取得した医療機器で調製された細胞加工物を用いる再生医療等技術の取扱いについて」)。自己血を用いるPRP(多血小板血漿)療法等がこの取扱いの対象となります(再生部会とりまとめ)。
 このほかにも、「保険収載された再生医療等技術について、手続を緩和することを検討すべき」については、当該医療技術に用いる細胞加工物の製造管理、疾病等の発生の報告については再生医療等安全性確保法による規制が引き続き必要とされる一方で、保険収載された第一種再生医療等技術については再生部会における審議の簡素化が図られるなどの措置が執られています。

(2) 認定再生医療等委員会の審査ガイダンス

 また、「認定再生医療等委員会が適切に審査等業務を行うことができるよう、一定のガイダンスを示すことを検討すべき。」については、令和5年10月、「認定再生医療等委員会の適切な審査等業務実施のためのガイダンス(手引き)(素案)」が公表され、意見募集(パブリックコメント)の手続が執られました。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495230166&Mode=0
 今後、再生医療等安全性確保法の改正と並行して、上記素案を基礎とする正式なガイダンスの策定が行われるものと見込まれます。

4.今後の課題

 このように、再生法見直し検討において検討の対象とされた事項の一部は法改正事項として、その他は現行法の下での運用改善や関係者の自主的な取組み等により、その多くが課題の解決に向けて動き始めていますが、一方では今回の再生法見直し検討においても一定の結論や方向性を明確化するに至っていない課題もあります。

(1) エクソソーム等(EVs:細胞外小胞)を用いる医療行為の規制の必要性

 例えば、「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直し」の検討事項の一つとされた新規医療技術(エクソソームを含む細胞外小胞)への対応については、エクソソーム等の製造プロセスの多くの部分(細胞から放出されるエクソソーム等を幹細胞を培養した培養上清液から抽出して回収するなど)が再生医療等安全性確保法で定義される「細胞加工物」と類似の工程を経る一方で、「細胞加工物」というより「細胞断片」として整理されるものであり、最終的なヒトへの投与物としての明確な定義付けが現状では困難であること、国内外の臨床研究・治験のほどんとが探索相であり科学的知見の集積が不十分であることから、エクソソーム等について、現状では新規医療技術として再生医療等安全性確保法の対象とするのは困難であると結論付けられました(WGとりまとめ)。
 しかしながら、患者へのエクソソーム等の投与に関連するものとみられるトラブルが疑われる事例が公になっていることもあり(拙ブログ2023年11月27日「再生・細胞医療に関連する法規制の動向とエクソソーム療法への影響について」)、特にエクソソーム等を用いる医療行為が自由診療として行われる場合には、再生医療等安全性確保法の施行前に幹細胞の投与による死亡事故が発生した経緯(自由診療として行われる再生医療・細胞医療の実態を把握する必要性が同法成立の契機の一つとなりました。)と類似する事案の発生が懸念される状況にあることがうかがわれます。
 日本再生医療学会もこのような事態を憂慮しているものと思われ、「エクソソームを含む細胞外小胞Extracellular Vesicles: EVs)(広義には培養上清も含む)について、急速な勢いで発展する再生・細胞治療の現状を鑑み、EVsを今回の見直しの対象とし、再生医療等安全性確保法の対象とすること」を提言しており(2023年10月27日「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」)、また本年度の再生医療学会総会(2024年3月21〜23日)に合わせた同学会の記者会見において、「治療で想定されるリスクや、製造工程で注意すべき点など」をまとめた指針を2024年4月にも策定する旨の発表をしたとのことです(2024年3月20日・共同通信「エクソソーム使用、指針策定へ 再生医療学会、4月にも」)。


第23回日本再生医療学会総会写真(現在新潟市で開催中の第23回日本再生医療学会総会。本ブログ執筆者も参加しています。)


 他方、本ブログ執筆者が見聞する範囲では、細胞間の情報伝達物質の運び手としての機能を果たす細胞外小胞を「細胞断片」と定義づける考え方への批判も見られ、また細胞外小胞を利用した治療用製剤を医薬品(バイオ医薬品)と位置づけてその臨床応用に際しての品質及び安全性の確保についての考え方を取りまとめた提言も行われています(令和5年1月17日「">エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書」、(独)医薬品医療機器総合機構科学委員会エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会)。このような動向からすれば、エクソソーム等に関しては、飽くまでも薬機法の下での治験を経て承認を取得した医薬品(治療用製剤)としての臨床応用に必要な品質、有効性及び安全性の確保に向けた規制体系を維持すべきということにもなりそうです。
 いずれにせよ、再生医療等安全性確保法の規制対象とされないエクソソーム等を利用した自由診療が医師法、医療法(更には民法、刑法)といった一般法による規制のみに服し、医師法17条に基づく医師の裁量的判断と自己規律のみに委ねられている現状については、何らかの手当てを考える必要性が否定できないものと思われます。

(2) 認定再生医療等委員会の審査の質の確保と委員会・委員個人の法的責任

 また、今回の法改正及びガイダンス策定の契機となった、認定再生医療等委員会の審査の質のばらつきの問題については、本ブログ執筆者も事業分担者として関与した認定再生医療等委員会の審査の質向上事業・制度検証班報告書(令和3年9月29日・第66回再生医療等評価部会参考資料1-1)でも言及されているところです。自由診療としての再生医療(美容目的)における合併症の発症による損害賠償請求訴訟が報道された事案では、「事前審査がずさんだったら、委員会の責任も生じてくると思う」旨の原告代理人弁護士のコメントも紹介されています(朝日新聞2024年3月13日「美容目的の再生医療 安全性課題」)。
 再生医療等の提供による健康被害が発生した事案において、認定再生医療等委員会の審査等業務に過失があったことを理由とする認定委員会設置者や委員個人の不法行為責任の問題については、本ブログ執筆者もこれまで複数回取り上げてきました。
https://attorneyandpatentattorney-onishi.blog.jp/archives/2015-09.html
https://attorneyandpatentattorney-onishi.blog.jp/archives/54923423.html
 筆者の過去の論稿では、’定再生医療等委員会による再生医療等提供計画の審査に明白な過誤・欠落があったり、∋猖柑故や重篤な有害事象の発生報告を受けていながら、医療機関に対して中止等の意見を述べることなく、従前のプロトコルに従った医療行為の継続を漫然と放置したりしていたような場合には、その後の新たな死亡事故や有害事象等の結果発生に対する関係で、認定委員会設置者や個々の委員にも結果回避義務違反が認められ、過失責任を問われる可能性が皆無ではないと整理しています。
 例えば、再生医療等を提供する医療機関と認定委員会設置者とが同一の医療法人又は個人開設者であって(上記報道のあった損害賠償請求訴訟の事案もそのような事例の一つであるようです。)、かつ委員会による再生医療等提供計画の事前審査が形骸化しているような事案においては、審査等業務や再生医療等の提供に対する関与の仕方によっては、上記)瑤廊△領犒燭紡阿垢襪發里箸靴董委員個人について、審査等業務における注意義務違反を理由とする不法行為責任が問われる可能性が皆無ではないものと思われます。
 上記のような認定委員会設置者や委員個人の法的責任が問われる事態の発生を未然に防止する点においても、前記3(2)のようなガイダンスが示され活用されることにより、独立かつ公正な立場からの適切な審査等業務の実施が確保され、認定再生医療等委員会の審査の質の向上が図られることが望まれます。

 民事訴訟のIT化を実現する改正民事訴訟法(令和4年5月25日法律第48号)のうち、ウェブ会議による口頭弁論の実施を可能とする次の民事訴訟法及び民事訴訟規則の改正規定が、令和6年(2024年)3月1日に施行されました。

【民事訴訟法】
(映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論等)
第87条の2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続を行うことができる。
2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、審尋の期日における手続を行うことができる。
3 前2項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。

【民事訴訟規則】
(映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論の期日・法第87条の2第1項)
第30条の2 法第87条の2(映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論等)第1項に規定する方法によって口頭弁論の期日における手続を行うときは、裁判所は、次に掲げる事項を確認しなければならない。
一 通話者
二 通話者の所在する場所の状況が当該方法によって手続を実施するために適切なものであること。
2 前項の手続を行ったときは、その旨及び同項第2号に掲げる事項を口頭弁論の調書に記載しなければならない。

 これまで既に書面による準備手続、弁論準備手続等へとウェブ会議による手続の実施が段階的に拡大されてきましたが、いよいよ民事訴訟の手続の中心ともいうべき口頭弁論もウェブ会議による実施が可能となりました。
 既にウェブ会議による口頭弁論の手続の実施の様子が報道されています。
民事裁判の「ウェブ」口頭弁論、大阪で始動 民訴法改正」(日本経済新聞・2024年3月1日)

 弁論準備手続などの非公開の手続と異なり、口頭弁論は裁判公開の原則に基づき、傍聴席を設けた公開の法廷で行うことが原則であり、ウェブ会議による口頭弁論も同様ですので、上記の報道写真のように、傍聴人は、手続に参加している訴訟当事者(原告・被告双方本人や代理人弁護士)の映像と音声を法廷内の傍聴席に向けられたモニターで確認しながら傍聴することが可能です。
民事訴訟の口頭弁論にウェブ会議で参加できるようになります」(法務省民事局・2024年1月)

 今後、令和8年(2026年)5月までに予定されている訴状等のオンライン提出による訴え提起、訴訟記録の管理の電子化など、令和4年改正民事訴訟法の全面施行に向けて、IT化が遅れがちとされてきた我が国法曹界も、喫緊の対応を迫られることになりそうです。

 去る11月26日(日)、一般社団法人MSCエクソソーム療法研究会主催の記念講演会において、上記ブログタイトルの演題名で講演の機会をいただきました。

MSCエクソソーム研究会総会チラシ5&プログラム Final_231124_133855_Part1








 エクソソーム療法については、幹細胞を培養して細胞数を増やす工程で得られる培養上清(液)に含まれる細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EVs)であるエクソソームが、幹細胞そのものと類似する抗炎症作用等の治療効果を奏するのではないかと注目されています。 
 エクソソームや幹細胞培養上清については、生細胞(生きている状態の細胞)を含まず、「細胞加工物」に該当しないことから、再生医療等安全性確保法、更には医薬品医療機器等法による承認を必要とする再生医療等製品に該当しません。
 これらの法規制が及んでいないこともあってか、ここ数年来、都市部のクリニックを中心に、エクソソームやその他の成長因子(サイトカイン)等を含む幹細胞培養上清(以下「エクソソーム等」といいます。)を自由診療として患者に投与するなどの医療行為を提供する医療機関が増えている状況です。
 一方で、詳細は不明ですが、患者へのエクソソーム等の投与に関連するものとみられるトラブル事例が相次いで公になっています。
・「幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について」(2023年10月11日、一般社団法人再生医療抗加齢学会)
・「【スクープ】話題の「エクソソーム」投与で肺がんが急速肥大 中止勧告後も継続された有名美容クリニックの『極秘治療』」(2023年11月21日、SlowNews | スローニュース〔伊藤喜之〕)

 このような状況を受けて、日本再生医療学会は、細胞外小胞(EVs)について、「再生医療等安全性確保法における再生医療等行為として、安全性確保について十分な確認を行うとともに、国が実施状況を把握し、モニタリングが可能な状況として取り扱うこと」を求める提言を公表し(2023年10月27日「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」)、さらに本年11月10日の厚生科学審議会再生医療等評価部会において「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい。」とする提言書を提出しました。

 ブログ筆者の講演においては、これまでの再生医療等安全性確保法(安確法)及び再生医療等製品における「細胞加工物」の解釈、エクソソーム等に安確法等の規制が適用されてこなかった法的根拠などについて解説し、今後の予想される法規制の動向について、管見を披露させていただきました。

再生・細胞医療に関連する法規制の動向とエクソソーム療法への影響について








 幹細胞培養上清の臨床利用については、再生医療(細胞医療)と類似する治療効果を標榜して患者を集める一部の自由診療クリニックや関連事業者に対する実態把握の観点から、将来的には何らかの規制を設ける方向性が望ましいと思われます。
 一方で、細胞外小胞を利用した治療用製剤(EV製剤)については、医薬品であることを前提として今後の製品開発や安全性評価に関する考え方を整理したPMDAの報告書が公表されています(令和5年1月17日「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書」)。EV製剤については今のところまだ国内外で規制当局の承認事例は存在しないようですが、これまでの規制動向や医薬品規制に関する国際的調和の観点からみて、我が国独自の「細胞加工物」概念を拡大して再生医療等製品に取り込むという方向性よりは、引き続き医薬品として臨床応用の実用化に取り組んでいくことが適切と考えられます。

 今後も、再生医療法務を手掛ける専門家の一人として、国内外におけるエクソソーム等に関する規制動向を注視していきたいと思います。

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 第22回日本再生医療学会総会が令和5年(2023年)3月23日から25日までの3日間にわたって国立京都国際会館で開催されました。
 本ブログ筆者は3日目のシンポジウム「再生医療における知財戦略」に登壇し、
ヒト組織・細胞の利活用における所有権その他の権利関係の処理と知財戦略
と題して個別報告を行いました。

 2020年以降のコロナ禍によりウェブ形式が続いていた再生医療学会総会も、実に4年ぶりの対面形式の開催ということで、総会本体も活気溢れるものでしたが、初日の懇親会も大変な盛り上がりを見せました。「オレンジの悪魔」で話題の京都橘高校吹奏楽部の生演奏を鑑賞できたほか、花火が打ち上げられるなど、学会なのかイベント会場なのかよく分からない熱気に包まれていました。


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(懇親会での打ち上げ花火。真偽不明ですが、学会幹部のどなたかのポケットマネーが財源とのウワサが流れていました。)


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336105908_711188290687738_7715901096272987989_n(ブログ筆者を含む「再生医療における知財戦略」登壇者がいただいた”JSRM”(日本再生医療学会)のロゴ入り八つ橋。テーマが知財戦略なので、らしいと言えばらしい(?)参加特典でした。)


 コロナ禍が明けて、やっとリアル学会の開催により知の交換の場が得られたという解放感・カタルシスといったものを、主催者・参加者ともに大いに感じていたように思われる日本再生医療学会総会でした。

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 再生医療を実施する際に、審査を行う特定認定再生医療等委員会の課題を調査し、関連法規等と比較しながら包括的に分析・検証を行った本ブログ筆者の共著論文(筆頭著者・一家綱邦国立がん研究センター/研究支援センター/生命倫理部部長)が、2023年2月23日(日本時間・令和5年2月24日午前1時)に、『Stem Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。
Difficulties in ensuring review quality performed by committees under the Act on the Safety of Regenerative Medicine in Japan

Tsunakuni Ikka, Misao Fujita, Taichi Hatta, Tetsu Isobe, Kenji Konomi, Tatsuo Onishi, Shoji Sanada, Yuichiro Sato, Shimon Tashiro, Morikuni Tobita
Stem Cell Reports, 18(1-5) (2023). Open Access Published: February 23, 2023 DOI: https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2023.01.013


 本論文は、筆者が厚生労働省の委託事業「認定再生医療等委員会の審査の質向上事業」(令和元(2019)年度〜令和2(2020)年度)における制度検証班の班員として参加し、同事業で制度検証班が報告した調査結果(邦文報告書は第66回厚生科学審議会再生医療等評価部会の資料として公開)について、班員ら個人の研究成果として改めて取りまとめたものであり、幹細胞・再生医療分野の国際学術雑誌『Stem Cell Reports』(2023年3月14日号)に査読論文として掲載されることとなりました。

 筆者としては、本論文の研究成果を再生医療等提供計画の審査等業務その他の再生医療法務全般に活用しつつ、再生医療等安全性確保法の下で研究/治療(自由診療)として提供される再生医療等技術について、規制科学の観点から適切な科学的妥当性及び安全性の確保に向け、今後も取り組んでいく所存です。


<令和5年3月1日加筆>
 本論文で示された調査研究の成果について、共著者らが所属する研究グループによるプレスリリースが行われ、報道でも取り上げられました。
自由診療で行われる再生医療の審査に関する課題を調査 今後の制度改正に期待」(2023年2月28日、国立がん研究センター、京都大学iPS細胞研究所ほか)
再生医療実施計画の審査 独立で公正な審査期待できないおそれ」(2023年3月1日5時52分 NHK NEWS WEB)

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